プロスペクトを見極める方法
最高レベルのクロージングテクニックをつかうべき、重要な営業段階はたくさんあります。前段階からクロージングまでの間、どれも必要にして考慮すべきものなのです。その中でもとりわけ重要な段階があり、それを外すと他の努力が水の泡になります。それはプロスペクトの見極め(qualify:査定) です。
最高の商品やサービスがあっても、あなたが最高に説得力のあるセールスマンで、クロージングテクニックに長けていても、プロスペクトの見極めに失敗したら、取引の半分は成立しないでしょう。何らかの理由で、クロージングに至らない顧客のために時間と努力を無駄にすることになります。
<意味がない>
何日もかけて、ある夫婦に2万5千ドルの住宅を売り込んでいたのに、実は、ご亭主が前の週にレイオフされていることが分かったとき、上司に説明がつかなかった、なんて言う経験があるでしょう。
あるいは、若者が1000ドルの国の小切手(?) を持っていたこともあり、彼が興味を示した車やボートを4時間かけてデモをした挙句、「父さんは、カリフォルニアに居るので(ここはNY) 、この話をして、小切手のサインを頼みます。僕は、まだ18歳なので…」などと言われたこと、ありませんか。
時間と経験こそ、最も価値ある財産なのだから、使うことです。まず、最初に時間をかけて、そのプロスペクトを見極めて、その上で次の段階に進むのです。そうでないと、それ以上の時間の浪費せずに、そこから抜けだすことが、実質的に不可能になってしまいます。
これまでのクロージングでの経験から学んだ原則に照らして、問題があってもすぐに解決できるようにしましょう。
あなたは、プロスペクトを見極めなければなりません。100%間違いのない見極める方法を身に着けるべきだし、それをすべてのプロスペクトで駆使するべきです。見極めをやり損なって契約を逃したり、「表面上は、そう見えないが、注文は取れそうだ。」と言うサインを見逃さないためにです。
実際の「見極めテクニック」の話に移る前に、きちんと「見極め」ないとどういうことになるかの例を紹介しましょう。
<座っていては、見極めはできない>
それは、土曜日の朝早い時間でした。私たちは新車、中古車の販売をしていて、その日はショールームに座って、新聞を読んだり、コーヒーを飲んだりしていました。
各セールスマンは対等の立場で競い合っていました。シフト制ではなく、週6日、オープンフロアで、朝8時から夜7時までの勤務体系でした。
ある日、10代と思われる若者が中古車の売り場に現れ、車を見て回っていました。営業マンのルイは保険の部門から我々のところに移ってきたところでしたが、私に「手伝おうか。」と聞いてきました。
私はその若者を見て、「何のために?」と鼻で笑い、また、新聞を読み始めました。
ルイはそっと立ち上がり、笑いながら「じゃ、売込みの練習でもしてくるかな」と言い残して、出て行きました。
15分後、その若者は、欲しい車を決めて、地元の医師だという父親に連絡をし、承諾を得て小切手をもらうために、車にルイを乗せて行きました。
その後間もなく、同様に「見極め」の大切さを示す事態がありました。ただし、その時、私は、自分で売り込む立場でした。
ある朝、若いプロスペクトがやってきました。私は見極め慎重になりました。時間を無駄にしたり、有望な商機を逃がすのは御免でしたから。職業は何か聞くと、その週に地元の建設会社で働き出した、とのこと。それだけでもがっかりしたのに、前職を聞いたところで、その答えに、ほとんど打ちのめされました。
「隠したり、嘘を言っても仕方ないことなので言いますが、これまで31カ月、家宅侵入の罪で刑務所に入っていました。でももう罪は償い、クリーンな身の上です。これからもそうあるつもりです。仕事に行くのに車がいるんです。」
「え? 服役していたのですか。31カ月。で、車を買おうというのですか。いやぁ~残念ですが…ちょっと待ってください。何とかできないかな。事務所に来てください。」
その頃、私はすべての事実関係を把握せずに、これ以上契約を逃すことは、絶対にしないと固く心に誓っていました。そして、やっとのことで、自分を取り戻しました。
その若者は車代金の40%分の前金を持っていましたが、それでも私の周りのみんなは若者の話を聞いて、冷笑しました。囚人相手に本気で商売するなんて気が狂っているんじゃないのか、と。
ただ一人の例外は、金融業をやっている私の知り合いでした。私は彼に電話をして、本人と話してもらい、金を貸せるかどうか、チャンスを与えるかどうかの判断を任せました。
若者は車を手に入れ、その後、勤務先の建設会社で優秀な現場監督に昇格しました。私の友人は、その後も若者に融資しています。若者は10年以上の間、一度も返済を滞らせたことがないからです。
<健全な見極めを約束する6つの基本的質問>
離れたところからでは、現実的で確実な「見極め作業」ができないとして、それでもすべてのプロスペクトを見極めないと注文を取れないとしたら、どうすればいいのでしょう。
基本的な6つの質問があります。それらに対する答えと、あとは自分の営業マンとしての経験で、プロスペクトが「今」なのか、「後でね」なのか「ムリムリ」タイプなのか判断できます。
まず、上の1番目のプロスペクトは、直ぐにクロージングする、3番目のプロスペクトに連絡は欠かさず、3番目は、売り込みの対象から外します。
6つの質問とは:
1.どこに勤めていて、何年勤続か
2.仕事の内容は?
3.どこに何年住んでいるのか(持ち家?賃貸?などの条件)
4.既婚者か?子供は?
5.買おうとしている車(ボート、保険、家具…)は誰のためか?
6.外見(体の特徴、話し方、マナー、態度)
それぞれの質問への答えをうまく聞くことができたら、多くの情報を得ることができます。それぞれの質問を別個に検証すれば、そこから契約が成立するかどうかの可能性を探ることもできます。また、他の質問の答えも見えてきます。
例えば、一つ目の質問はあなた、すなわち営業マンにも当てはまります。
あなたのプロスペクトが、百科事典のセールスマンの仕事を3年間やっていると言ったとします。
訪問販売(direct selling)の仕事で成功するのが、いかに難しいかは、あなた自身がよくわかっています。言い換えれば、この業界で3年やって来られたということは、結構優秀なセールスマンか、働き者に違いないし、その両方かもしれません。ほとんどの場合、固定給無しの完全コミッション制で、生き残るためには(恐らく他の業界よりももっとコンスタントに)売り上げるしかない、基本的に玄関のベルを鳴らすセールス手法です。
もう一つ言えることはこのプロスペクトが一時的な存在かもしれない、ということです。
営業の仕事に従事する人たちは、一つの町に精々2-3か月滞在して、次の町に行ってしまいます。あるいはこの町に来るのは2-3年に一度かも知れません。
そうなると、場合によってはローンを組むことに問題があるかもしれません。そこで、他の質問への答えがどう関わってくるかが問題です。どこに住んでいるのか、既婚者なのか、持ち家か、借家か。それらの答えからこの人物が一過性の存在か、真のプロスペクトになるかが見えてきます。
どんな仕事をしているのか。この質問への答えからも多くのことがわかってきます。この後の事例で紹介しますが、販売アプローチに影響します。
彼は、給料が安いことで知られる市役所の勤続10年の職員かもしれません。一方で、仕事の内容は公益事業委員会(public service commission)の責任者で、望めばあなたが働く会社を買い取れる立場にあるかもしれません。
3つ目の質問の答え、すなわちどこに住んでいるのか、持ち家か借家か、はいくつかの理由で重要です。例えば先ほどの百科事典のセールスマンを例にとると、「この町に住んでいる。これから家を買おうとしている。他の町へ出張で出ていく。本社はこの町にある。確かに出張が多い仕事だが、この町の住民だ。」そうだとしたら、資金調達に問題はありません。
あるいは、「住まいは200マイル離れている。独身で高額所得独身者向けの高級マンションを借りて住んでいる。5年契約で、住み始めて2年、今月改装もする。」こんな答えだとしても恐らく資金調達には問題ありません。ただし、知るべき答えを全部聞いてから判断しなければなりません。
最後の質問への答えでその後の答えが真実かどうかわかります。既婚者か。子供はいるのか。確かに独身だと答えたが、一度は結婚していたかも。複数の子供の養育費を払っている。そうなると収入がいくらあっても足らない。自宅から離れたところで働いているのはひょっとして、扶養義務不履行や扶養手当未払いから法的に逃れるためなのか。
この辺りをうまく探るにはこう聞きましょう。
「結婚されてされたことないのですか。いや、正解だと思います。私は結婚していて幸せですが、私はあなたより年上ですからね。落ち着いてしまう前に好きなことをして暮らしたいと思う気持ちもわかります。」「私の知り合いで、離婚した元妻と子供たちを養育して、その上、自分の新しい住宅費も払っている人がいますが、気の毒だなと思いますよ。これだけ物価が上がったら、しんどいでしょうね。」
(訳注: アメリカの離婚に関する法律は、日本より男性に厳しく、例えば、General Electricという大手企業に勤めていた知り合いの30代半ばの男性の場合、全資産の半分と、毎月の収入の半分を取られていました。別れた女性が次の結婚をするまで、払わなければならないので、女性が新たな男性と親密になったとき、事実上の結婚生活をしていても、籍を入れない場合が多く、男性は、事実婚であることを証明するために、探偵を雇ったりするのですが、その費用や裁判の費用を考えると、その男性が困窮することは、目に見えています。それでも、アメリカの離婚率は日本の離婚率より、はるかに高く、離婚歴のチェックは、より重要になるのです。)
そこまで言うと、大概、「別居中の人」や「離婚経験者」も口を開くでしょう。だけど、そこで営業をやめてはなりません。離婚経験者のクロージングには、何度も成功しました。多くの場合、別れた妻に了解を取り、さらには1、2回、彼女に助けてもらったこともありました。
誰のために購入するのかを、何故聞くのでしょう。注文さえ取れれば、その車、家具あるいはその他の商品が誰のためかは、どうでもいいことでしょうか。実は違うのです。
プロスペクトとの長い時間をかけたすえに、実は彼の妹、上司の、あるいは職場の誰かのための見てまわっているんだと言われたことが何度もあるでしょう。あなたも経験上ご存知でしょうが、こんな場合、物を売ることは不可能です。
<難しいケース>
プロスペクトと話す時に一番苦手なのは、彼(あるいは彼女)が「物知り(expert)」、つまり私より製品やサービス内容をよく知っていると思っている人を連れてくることです。十中八九、この人物は私の言ったことに横槍を入れ、自分がどんなに有能で物知りか示そうとし、私の「売る努力」をすべて台無しにしようとするでしょう。
次に私がイヤなのは、「ジョーが電動芝刈り機を買いたいって言うので、町に出てきたついでにボクが、ちょっと見てやろうと思って。」と言うケース。たいていの場合、肝心のジョーは、このお節介な誰誰さんに感謝した上で、「僕はいいから、自分の芝刈り機を買ったら?」と言うでしょう。
この本ではこの2種類の人物をどう扱うか別の章で語っています。ただ、プロスペクトの見極めと言う点では、このことは初めの時点ではっきりとさせておかないといけません。そうでなければ、何時間も無駄な実践を積むことになるし、そもそもこのタイプに対する実践練習など不要なのです。
「誰が購買者か」という問題は、法人営業の際に、最も重要になります。目の前のお客は、社用のトラックを複数台、あるいは450フィートのオーシャンタンカーの装備一式を探しているのかもしれません。もしかしたら、その人物は会社の中で購買を一任されているのかも知れない。だから、彼が「自分が使うわけじゃないんだ」と言った時には、気を付けないといけません。自分のため、ではなく、製紙会社の購買代理業者として探しているのかもしれません。そうでないかもしれません。
お客の見極めの、とても簡単なやり方は、名刺をくれた、その人の「会社」に電話することです。
電話で、購買代理人に代わってほしい旨、伝え、「不在です。」と言われたら、名前を聞きます。もし、その名前が先ほどの人物の名前と一致していたら、専任の購買担当者はいないけれども、ジョーンズ氏(車なり船に興味を示した上記のプロスペクト)が実質的な購買を担当していると言われたら、商売につながります。そうでなければ、さらに調査する必要があります。
経験豊かな営業マンは話をして、質問した時と同じくらい、その相手を見ただけで人物像を理解することができます。ただし、見た目に騙されないように注意しなければなりません。「見た目」はあくまでその後にどうやってその人物にアプローチするかを決める参考してください。
裸足で長髪のヒッピーじみた人物は恐らく4万ドルの生命保険の契約はしないでしょうが、作業服を着て髭が伸びているからと言ってその人物も生命保険に縁がない、とは限りません。
洞察力のある営業マンは、ふつう、その人物の言っていることを聞けば、インチキかどうか見極めることができます。その時彼は、「何を言ったか」ではなく「どのように言ったか」を見極めています。いずれにしても、大学院卒のエンジニアだ、と主張する人物が、下町のルンペンのような話し方をするような場合は、簡単に分かります。
繰り返しますが、話し方に騙されてはなりません。誤った印象を持ってしまい、間違った即断に繋がるかもしれません。
見極めの手順で同様に重要なのは、様々な細かい事柄です。プロスペクトが、どんな車に乗っているか、子供は何人いるのか、奥さんはどんな人か等に注意を払います。奥さんは身なりがいいか、髪は、最近、美容院でセットをした感じか、いいダイヤの指輪をはめているかなどです。
繰り返しますが、プロスペクトの見た目に惑わされてはいけません。大統領候補だった スティーブンソン氏の写真を見ると、靴の底は擦り切れ、まるで破産寸前のようです。大統領候補には、とても見えません。ましてや、大金持ちだとは、わかりません。
もしろん、これらの質問は、立て続けに聞くものではありません。プロスペクトに椅子に坐ってもらってから、注意深く、質問を織り込みます。会話のところどころに、質問を1つずつ、滑り込ませて、聞きたいことをすべて聞くことで、プロスペクトの人物像が浮かび上がり、彼に何ができて何ができないかが理解できます。質問への答えや、あなたの経験から、そこでやめるか、前に進むかが決まります。
<典型的な見極め>
その男性は35歳くらい。小ざっぱりしていて身なりよく、乗っている車は新車ではないにしても最近のモデルで、手入れも行き届いています。車の登録は、よその郡で、リアフェンダーには、高性能アンテナが付いています。
よくある会話は、こんな感じでしょう。
「ジョーンズさん、お勤めはどちらですか。土曜日に働く必要のない、幸運な方の1人ですか。」
「いえ、残念ながら。私は高速道路部で働いています。」
「じゃあ、警察官ですか。」
「いえ、そんなエキサイティングな仕事ではありません。私はエンジニアです。自宅はOakville(ここから250マイル離れた町)で、新しい高速道路が開通するまでこちらに滞在しているのです。早く終わって家族のもとに帰りたいです。息子と時間を過ごせないので残念です。」
「なるほど、坊ちゃんはおいくつですか。」
「6歳です。」
「丁度可愛いころですね。子供が小さいうちは楽しいですね。Oakvilleと言うと小さな町だ、と言うことくらいしか覚えてないのですが。きっと、坊やが遊べる大きな庭があるのでしょうね。やんちゃな子供にはそれが一番です。」
「庭は、大きいですよ。2年前に家を買いました。子供が道路に出るんじゃないかと家内が心配したので、フェンスを巡らせました。息子は庭で遊びまわる事はできないんです。生まれつき障害がありまして、装具を付けないとならないのです。」
「それは失礼しました、ジョーンズさん。何も知らずに…」
「いえ、いいんですよ。ご存じなかったのですから。かなりよくなってきたので、先生は危機を脱しつつある、と言っています。まだ野球はできませんがね。それで、モーターボートを買ってやりたいと思ったのです。時々池で遊ぶことができるかな、と思って。水上スキーをやらせれば、筋肉にいいでしょう。」
「そうですね!子供には一番ですよ。丁度これなんていかがでしょう・・・」
ここでセールスマンは重要な質問をたった一つ聞きました。「お勤めは?」
あとは軽い質問一つ。「お子さんはおいくつですか。」それだけで他の必要な答えは全部得ることができたのです。その上で、このプロスペクトは、上質なボートとモーター、そして恐らくアクセサリー類も買ってくれると判断できるのです。
いくつかの質問をすることで、このプロスペクトはエンジニアで、話し方と仕事の内容から見て、恐らく大卒。既婚者で郊外の小さな町に家を買った。家族をこよなく愛している。そして、障害のある息子にボートを買ってやろうとしている、などのことが分かりました。
<コインの裏側>
その男性は、大体同じ年齢で、ひげが伸びています。吐く息から判断するに、酒を飲んでいます。来ている服は、汚れた安物です。車は古くてへこんでおり、汚れています。車の登録書は、地元で登録したことを示しています。
「クラバンさん、どちらにお勤めですか?」
「高速道路部だよ。」
「あぁ、警察ですか。」
「お巡りなんかじゃねぇよ。補修部さ。お巡りの仕事なんて誰がするかい。ところで、あそこにあるリグ(船?)はいくらだ。」
彼は5000ドルのツイン・インボード、アウトボードと、すべてのトリミング付き船を指さした。
「はい、あれはとてもいいリグですよ。ところで、どちらにお住まいですか。この町ですか。」
「公営住宅さ。1年前に役立たずのカカアが子供を連れて出て行ってからは、公営住宅でしか住めないさ。稼ぎは裁判所に取り上げられて、養育費に回される。あいつは、裁判所に、自分が病気で働けないと言ってるらしいけど、そんなのウソさ。嘘っぱちが、まかり通って、それで働かないんだ。俺に5分でも時間をくれれば、その嘘を聞き出せるのに。それで、あれはいくらだって?」
「高速道路部で勤続何年くらいですか。長いんでしょうね。」
「そうでもないさ。4年かな。そろそろ仕事を変えようと思ってる。今、6カ月の停職中でね。俺のことが気に入らないからって、仕事中に酒を飲んでたなんて言いやがる。酔っぱらってトラックを壊したって言うんだ。一方通行の道路だなんて、どうやってわかるんだ。え?」
これ以上は必要ないでしょう。直接質問することでセールスマンは必要十分な答えを得るのです。
明らかにこの男性は5000ドルどころか、もっと安い船でさえ買えると思えません。
彼は酒飲みで、そのせいで停職になっている。妻は子供を連れて家を出ている。金がないので公営住宅しか住めない。飲酒癖はかなり深刻に違いない。トラックを壊し、4年もやっている仕事で停職を食らっている。「転職を考えてる」と言っているが、恐らくもうすぐ、あるいはもしかしたら既に、解雇されているのだろう。それなのに、まともな補修工の稼ぎの3倍もするような船を見ているのだ。
<誰かのために買い物する人>
これらの質問に対する答えは、夫の買い物をする主婦、あるいは上司や友人のために買い物をする人からも引き出すことができます。「ご主人は(上司は)どちらにお勤めですか。」「パーキンスさん、お子さんは何人おられますか。」それらへの答えは、直接プロスペクトから聞くのと同じくらい容易に引き出すことができます。この場合、プロスペクト本人の名前と電話番号が一番重要な情報となります。
<事実を漏れなく集めてから売る>
私の知る最も優秀な営業マン、ジムは投資信託会社に勤務しています。ある日、男性の声で、「投資信託の話を聞きたいが、忙しくて出られないので、会社まで来てくれないか。」と電話がありました。
ジムは、その日の午後訪問する約束し、町のはずれの自動車修理工場の住所をもらいました。行ってみるとそこは荒れ果てた、しょぼくれた建物で、ぼろぼろの車が何台も放置されていました。彼は住所を間違えたと思いました。若い男性が出て来て、用件を聞いてきました。
ジョーズ氏に会いに来たと伝えると、その男性は、ボロ布で手を拭いて、「私がジョーンズです。あなたが投資信託会社の方ですね。」と言いました。
ジムはうんざりしました。どうやら、町のはずれまで車で来て無駄足だったようで、精々月額10ドルの契約が獲れたらいい方でした。男性は投資信託を買うどころか、十分食べていないように見えました。思わぬ展開があるのでしょうか。
実は男性の妻と赤ん坊が、2年前、不幸な事故で亡くなり、つい最近、$315,000の保険金が支払われたのでした。ジムは4か月かけて様々なファンド商品を調べて、この男性のために投資プログラムを作成しました。その額は25万ドルに近くで、ジムには、ファンドが継続する限り、死ぬまでずっと定期的にコミッションが入ることになったのです。
<製紙工場の労働者>
ある日、50歳くらいの製紙工場で働く男性が、新車3台買いたいと言ってきました。1台は彼自身のために、もう1台は娘のためのコンバーチブル、そして、もう1台は園芸好きの妻にステーションワゴン。ほとんどの製紙工場の従業員の給料は、週に125~150ドル程度です。彼に限っては、たんまり金を持っているのだろうと私は考えました。その1日2日前に、新聞で似た名前を見たような気がしたからです。そこで、少し席をはずして、その製紙工場で働く友人に聞いてみました。
すると、「似た名前」ではなく、まさしくその人物でした。彼は最近、工場の管理者かつ、バイスプレジデントに年収4万ドルで任命されたのでした。
<低収入>
それからもう一人。低所得者用の公団開発プロジェクトの用地の中に住んでいると言う男がいました。そこは、低所得層向けで家賃は安い、週給40ドル以下の市民向けです。ただ、想定外だったのは彼が、4000戸規模のその公団開発のプロジェクト・マネージャーで、保険をはじめとして、様々なものやサービスの調達を一任されていたということでした。担当は、私が指導していた、若手営業マンでした。そのマネージャーは、彼に「郡の管理事務所で働いている」とだけ言って、彼が、その事務所の責任者であることまでは言ってなかったのです。
「彼の与信はろくでもないだろうから、現金を受け取ってもらえないよ」とか「去年のガールスカウトのクッキー代もまだ返せないでいる」などと言って笑っていると、「勘に頼って客の見極めをする」と言う悪い癖に陥りやすいでしょう。
<努力を怠ると、どのように注文を失うのか>
私のファイルの中に、地元新聞の切り抜きがあります。アトランタの代理店の営業マンのことです。ある男性がショールームに入って来て、一番安い4ドアセダンを見たいと言ってから、2つ質問をしてきました。同じ色の同じ型、内装はビニール仕様のセダン30台をそろえるのにどれくらい時間がかかるか、値段は、いくらになるかと聞くのです。
自分のことをプロだと思っている若手の営業マンは、その男性シミのついた作業服、頑丈そうな安全靴に、油まみれの帽子という姿を見て、「上司に価格を聞いてきます。」と言って中座しました。もちろん、彼は隠れたのでした。「頭がおかしいんじゃないか。自転車1台だって変えないだろうに、ましてや自動車30台なんて…」
その男性は、見積価格が聞けると思ってしばらく待っていましたが、「急いでいるので」と別の営業マンに一言残してその場を去っていきました。その際、名前と電話番号を渡し、「『二時間後には戻っているので、見積価格と納期を連絡してほしい。』とさっきの人に伝えてくれ。」と言い残しました。
逃げた営業マンは、男性が立ち去るのを確認してきてから隠れていた場所から出てきました。男性の名前と電話番号のメモを渡されたのに、見もせずにごみ箱に捨てました。「チッ、こちらの時間を無駄にされた。」と言いながら。
数日後、近くの競合相手が30台の新車の注文を獲得し、担当の営業マンは1500ドルのコミッションを得ました。そればかりか、その店の店長は、100ドルもするスーツをボーナスとして与えました。
後でわかったことですが、その男性客は最近大きな工場を売却し、タクシー会社を創業したのでした。
<高くつく6つのミス>
ここまで述べてきた中で「顧客の見極め」における様々なミスや、ニアミスを述べていますが、これらはプランが無いかぎり、誰もが犯しがちな基本的なエラーが原因であることに気づくでしょう。
若い男性客のエピソードでは、私はもっとも犯しやすいミスを犯していました。「外見で見極めた」ことです。
確かにその客は若く、自分で購入することはできませんでした。しかし私は、彼が誰か他の購買力のある人に頼まれて来たのかどうかの確認を怠りました。見えないところに、父親が控えていたことに気づきませんでした。
相手にせず、新聞を読み続けた。そのために逸注したのです。30台の自動車を買った男性客の場合も同じです。プロスペクトは誰の代理で買おうとしているのか。上司、あるいは、誰か購買力のある人物が、重要な会議を外すことができないので、彼を代理で寄こしたのかもしれないのです。
営業マンのジムもすんでのところで、同じミスを犯して投資商品を売り損なうところでした。プロスペクトは保険請求を決着させており、そのお蔭で不可能なことが、可能になったのです。
製紙会社の男性は、店に入って来るなり「私は製紙会社のバイスプレジデントだ、3台新車を買いたい」などと声高に、言いたくはなかったのです。そうではなく、売り手側からら、勤務先と役職を、プランに基づいた質問によって、聞かれることによって、彼が3台の車を買う力があり、買うつもりであることを分からせたかったのです。
製紙会社のバイスプレジデントと郡の公団開発のプロジェクト・マネージャーも同様です。営業マンは幸運にもその事実を知り、正しくリードすれば、契約に導けることを察知しました。
運不運に左右されないように、6つの質問事項を忘れないでください。大事なことは、これらの質問の答えを全部得ないことには、見極めテクニックは完全ではないということです。もちろん、1つ目の答えだけで、プロスペクトに購買力があるかどうかを見極めることができる場合もあるかもしれませんが、確実ではありません。
目の前のプロスペクトに付き合うべきか、あるいは見切りを付けて他を探すべきか。
間違えようのないプランを策定しましょう。
<マイクから一言>
6つの質問に関して、なぜ、プランがあると有利なのか、それは、聞かれた顧客の気持ちを考えると、その方が、すんなり話してくれるからです。人は、プライベートなこと、自分の財力を唐突に聞かれると、不快な気持ちと懐疑心を持ちます。親近感が損なわれ、コミュニケーションが取りづらくなります。ここで言うプランは6つの質問を機械的に読み上げるように聞くという意味ではありません。それは、6つの質問への答えをすべて得るために、会話の流れの中で、どのように自然に聞くかを、事前に考えておくということです。
「お客様は、結婚されているんですか。」
という質問を唐突にするのは、リスクがあります。
「そろそろ、お花見のシーズンですね。ご家族とお出かけになるんですか。」
という聞き方のほうが、既婚かどうか、家族か何人かを唐突に聞くより良いわけです。このような質問を、自然な会話の流れの中での、どう聞くのかを考えておくことと、そして、6つの質問に対する答えを、すべて得るのだという目標を持つことがプランするということなのです。
<法人の購買者の見極め>
では法人や、経営者の代理の購買者はどうでしょう。その際、購買者本人の年収や与信は関係ありません。興味を持つべきなのは会社自体とそのニーズです。経営者が自分の会社のための購買をする場合は、会社と彼本人についての両方を知らないとなりません。得るべき情報は大体同じですが、違ったやり方で情報を得るのです。
<見極めに役立つ資料>
事前情報を得ることの出来る刊行物(books)が何種類かあり、それらはセールスマンにとって欠かすことができません。実際に会ってからの聞き取りでは事前情報に補完して、その上でその法人や経営者の見極めをします。自分の販売担当地域の電話帳や、city directoryは手元に置くべきだ。Dun and Bradstreet’s Rating Book(訳注 日本の帝国データバンクのような会社が発行する本)や、地元の支局(財務局)が発行する与信レーティング (credit rating)も手に入るでしょう。ほとんどの販売会社はこれらを事務所に置いていますが、もし無いのなら是非用意するべきです。地元のcredit ratingが無く、地元の役所も出してくれない場合(そう言うケースは多い)は、セールスマンは、独自にプロスペクトになりそうな法人や経営者の信用調査が出来る権限を持つべきです。業界誌の定期購読や、Who’s Who in American Business (紳士録)も法人営業では価値があります。
法人規模の大小を問わず有益なのは、実際営業マンが工場など現場へ出向いて、自分の目で見ることです。操業の様子を目の当たりに出来るし、その会社が購買を考えている機械や在庫品を買うことができそうかどうかの見極めができることもあります。
顧客見極めの方法を1つか2つの簡単な文を言うことはできません。あまりにも、重要であり、多岐にわたっているからです。
しかし、扱う製品やサービスが何であれ、プロスペクト見極めのどんな場面でも使うことの出来るリマインダーのリストはあります。ただ、見極めテクニックでカバーした「べし・べからず」を語る前に、同様に重要なことがあります。
見極めの際、相手との対面の間中、あなた自身の態度や姿勢が大変重要になってきます。
プロスペクトが若いという理由だけで、読みかけの新聞に戻ってはなりません。あるいは最近刑務所から出てきたからといって、その人物と話すのは時間の無駄だ、と決めつけてはならないのです。
プロスペクトが店に入って来た時、あるいはアポを取って先方を訪問した時は、必ず相手が潜在的な購買者だ、と認識することです。契約を取るのは難しい相手かもしれませんが、売ることができる相手だと認識してください。
まとめると以下のような基本ルールがあります
・机にすわって、プロスペクトの見極めをしない
・6つの基本質問の答えのうち、1つががっかりする内容だったとしてもあきらめない
・プロスペクト本人や会社について 先入観で結論付けない
・どんな結論を下すのであれ、その前にすべての情報を取ること
・法人営業の場合は、実際に訪問する前に事前調査を済ませること。工場の周りを車で走るだけでかなりのことがわかります。
・法人営業の場合は事前に電話帳、city directory、Dun and Bradstreetや与信レーティングなどの資料を入手すること。その上で営業活動をしたほうが、法人の担当者や経営者に対してよいクロージングができる。あなたが先方のことをきちんと学習していれば、彼らはプロの営業マンと取引ができることを喜んでくれるでしょう。

