人間を何かに興味を持ちやすい心理状態にする3つのボタン
2章で説明したように、人間が持っている不合理な判断を引きおこしてしまう心のシコリのようなもののことをボタンと呼びました。決定ボタンはクロージングの直前、プロスペクトが契約書に署名したり、発注したり、「これを買う」と言う直前の段階で再刺激され、「署名するな」「買うな」「やめとけ」という心の声を生み出します。この決定ボタン以外に3つのボタンがあります。これらは「興味を抱いてはいけない。」という心の声を生み出すボタンです。この3つのボタンを押しておく(処理しておくと)、人は、これから注意を向ける対象に対して、興味を持ちやすくなる状態になります。決定ボタンの処理は、プロスペクトとの日頃の付き合いの中で、ある程度の時間をかけて行う場合と瞬間的に行う場合がありましたが、これからお話する3つのボタンは、やろうと思えば1回の面談の中で、短時間に処理できるのです。正に3つのボタンを短時間の間にすべて処理して、相手が何かに興味を持ちやすいにしてしまうのです。
ヘルプボタン
あなたは人から「あなたを救ってあげる。」とか「これはあなたの助けになるのですよ。あなたのためなのですよ。」などと言われるとどう感じますか。まず怪しいと感じます。不愉快になったり、敵対心がわいてくることもあります。なぜでしょう。太古の昔から、人は「ヘルプ」つまり「助け」という言葉を使って接してくる相手に、あまりにも数多く裏切られてきました。あなた自身の短い人生の中では、それほど裏切られた経験が無くても、人類の長い歴史の中では、何度も何度も数えきれないくらい裏切られてきたのです。その結果、他人から自分へのヘルプの申し出を疑う気持ちが遺伝子にまで刻み込まれてしまい、ヘルプの申し出に不合理な反応を引き起こすヘルプボタンを心の中に形成されました。そして、誰かがヘルプしてあげると寄ってくると、ヘルプボタンがブルブルと震えはじめ、「信じてはいけないぞ。」とか「何か裏があるぞ。」という考えを芽生えさせるのです。
さて、ヘルプボタンをどうやって処理すればよいのでしょうか。あなたは精神分析医でもなく、プロのカウンセラーでもありませんので、ボタンそのものを取り去ることはできません。
ただ、ブルブルと反応しているボタンをなだめて、休止状態にすることはできます。
シンプルなやり方を教えます。それは、あなた以外の何か(あるいは誰か)が別の何か(誰か)のヘルプになっていることを話題にしてそれを相手に認めさせるのです。あなたから相手への直接のフローでヘルプを話題にするのは再刺激的すぎるので、他から他へのフローに転換し、信じられるヘルプが世の中に存在することを認めさせます。他からあなたへのフローでも結構です。どんな事例でも構いません。会話の流れの中で自然に出てきさえすれば良いのです。
「昨日、地震がありましたが、お怪我はありませんでしたか。それにしても最近地震が多いですね。地震と言えば前の熊本の震災で、また海外からの援助金が結構集まったみたいですね。そんな時の外国からの援助というのは、本当にこころ温まるし、助けになりますよね。」
あなたが言ったことに対してプロスペクトが「そうだね。」と言って、裏切りのないヘルプが存在することを言葉で認めた瞬間、ヘルプボタンの処理が完了です。ヘルプボタンが押せました。
ここで重要なのは会話の流れに不自然さがないということです。脈絡のないところから、無理に、あるいは急に「あれはすごい救いになりましたね。」というのはだめです。その点、あなたの創造力や事前準備が必要です。
コントロールボタン
コントロールボタンは、ヘルプボタン同様、過去のトラウマの積み重ねによって形成されたものです。そのせいで人は自分がコントロールされそうになると、「簡単に言いなりになってはいけない」という考えを持つのです。コントロールボタンを刺激せず、なだめるのにはどんな方法があるのでしょうか。刺激が少なくシンプルで差しさわりのないやり方で相手をコントロールすることで、このボタンを押すことができます。
あなたはプロスペクトと向き合って商品説明をしています。「すみません。パンフレットの8ページを開けていただけますか。」彼は、あなたに言われた通りに8ページを開けます。これでコントロールボタンが押されました。どんな些細なコントロールでも結構です。近くにある何かを取ってもらうとかでもいいのです。シンプルなコントロールを入れた瞬間、彼は、「人からコントロールされるのは、それほど恐ろしいことでも、腹立たしいことでもない」ことを潜在的に実感するのです。
あなたは、最終的にプロスペクトにペンを持たせ、サインさせるという究極的なコントロールをしなければならないのです。それと比べれば実に簡単なことですが、他のボタンとともにこのボタンも処理すれば、興味を持ちやすい心理状態にするという意味で絶大な効果があがるのです。
コミュニケーションボタン
コミュニケーションという一般的な言葉を使っていますが、ここで言うコミュニケーションボタンを押すとは、相手に心を開かせて、普段人に話さないようなことを話してもらい、あなたがその話に耳を傾け、同意したり、理解したこと意味する言葉を相手に伝えるということです。(そうだったんですね。そんなことがあったのですね。なるほど。などのような言葉です)。その時、コミュニケーションのサイクルを意識することが大事です。(本文1-5マイクの一言を参照のこと)
では、普段話さないようなこととは、どんなことでしょうか。それは、その人の隠し事、愚痴、批判、嘆きなどです。その中でも、もっとも強烈な効果があるのは隠し事なのですが、それは話させるには、それを話したくなるような心持ちにさせ、直接的な質問をせずに聞き出すということが必要なので、それなりのテクニックが必要です。
まずは、軽い話題から入ってください。愚痴を聞くことから始めましょう。愚痴話すことから、絶対的効果のある隠し事を話すことに繋がることが多いからです。愚痴を聞き出すとき、「何か困っておられることとか、悩んでおられることありますか」などの直接的な質問は愚の骨頂です。この時非常に有効なのが、決めつけ型の質問です。
あなたが中小企業の経営者に営業をかけているとします。「先ほど御社の事務所がちらっとみえましたが、社長の会社の皆さん全員エネルギッシュで、猛烈に働く有能な人たちが一致団結している感じがひしひしと伝わってきました。うちの会社の管理部門の連中に見習させたいですよ…」あなたがそう言うと、「いやいや、実は困った従業員もいるんだよ…」と愚痴が始まるかもしれません。人は、何もかも順風満帆であることを決めつけられると反論したくなるものです。ちなみに社長が社員の愚痴を言うということは、その瞬間にその社長から社員への隠し事ができているということで、その隠し事をあなたが共有することができるのです。
例はいくらでもあります。「先日、奥様が店にお見えになりました。(きれいな人だったら、綺麗だとほめておいて)ものすごく優しそうな方ですね。別の従業員が対応させていただきましたが、お話させていただきましたが、奥様のほのぼのとした上品な雰囲気に関心していました。」というと「いやいや、怒り出すと半端じゃないんだよ。実は前も…」というような返しがあるかもしれません。
相手から日ごろ話さないような話を聞き出すために、自分も日ごろからある程度、プロの営業マンとしての信用を失わない程度の失敗談や罪のない隠し事を自己開示しておくとよいでしょう。相手も心を開いて話してくれやすくなります。ある高額医療機器のトップ営業マンは、よく次のような失敗談を話していました。「学生の時に、アメフト部の仲間と飲みに行った時に、ウィスキーのボトルを一気飲みして、病院に運ばれたことがあります。気が付いた時には、おむつをつけられていて、ドクターから心電図を見せられ、生死をさまよっていたことを教えらました。それ以来、酒を飲むと蕁麻疹がでるので飲めなくなりました。」彼の年間売上は約20億で、平均的営業マンの4倍ほどでした。彼はよく病院の先生方をキャバクラなど、あまり行儀がよくない場所で接待していたようですが、今から思えば彼は接待しながら、決定ボタンも含め、ヘルプ、コントロール、コミュニケーションのすべてボタンをその一席で処理していたのかもしれません。


