あるプロスペクトが病的に特定の営業マンを嫌悪するケース

<あのデインとかいう人を私につけないで>

随分前のことですが、私が働いていた自動車販売店で笑い話にされていたことがありました。ある年配の女性客が「あのデインとか言う人を私につけないで」と別の営業マンに言うのです。少なくとも名前は憶えていて、アイツとは呼ばれませんでしたが。

ある日の午前に彼女は店に現れました。私はいつものように他のプロスペクトと全く同じように接しました。礼儀とできる限りの親切さをもってです。私が彼女を怒らせるようなことを言ったのか、私の見た目が気に食わなかったのか、どちらとも言えないのですが、何かが原因で彼女は私のことをものすごく嫌っていたのです。

私は3時ごろまで彼女につきっきりだったのですが、何かがおかしいことに気がつくべきでした。なぜならば彼女は好みの車種を見つけ、価格的にも問題はなく、それを買う金銭的余裕もあったからです。

それでも彼女は買おうとしなかったのです。しばらくたってからでないと買えないということを何度も言うのでした。私は努力を尽くしましたが、どうしてもクロージングに持ち込めず、彼女は去っていきました。

その日の夕方、セールスマンと代わってほしいとの電話が、彼女からありました。ただ「セールスマン」だけで名前の指定はありません。「デインとかいう人」でもありません。

電話の交換台のオペレーターは面白がって、待ちきれない様子で私にそのことを伝えてきました。私はとりあえず他のセールスマンを電話に出てもらって、彼女が何を求めているのか見極めるための話をさせました。

彼女は自分が選んだ車を家に運んで、小切手を受けとるように言いました。それはまさに私が売り込んでいた車でした。あっけなく決まりました。

その日の午前中に話していた相手が私だったかどうか、そのセールスマンが聞いたところ、彼女はそれを認めましたが、私と関わるつもりはないとのことでした。彼は何が問題だったのか聞きましたが理由は言おうとせず、ただ私が提示した値段でその車を引き取ることと、私と取引をするくらいであれば他で買うと言うのです。

私は車を一時間以内に彼自身が届けることを伝えさせて、彼に電話を切らせました。私の努力に対して示した彼女の興味深い反応に大笑いしながら、私たちはこの取引は私のものであることで合意し、私はこのセールスマンに納車の手間とその女性に対するアフタフォローの謝礼として20ドル渡しました。

私は彼女とは接触しないようにし、何がまずかったのかの見つけようとか、彼女をなだようとかの努力はしませんでした。私には何が問題であったかということと、それが自分のせいではなかったことが分かっていました。彼女の心を変えようとしても無理であることも、もっと分かっていました。

それは純然たる性格の不一致でした。双方向で起きるケースこともありますが、この場合は片側だけで起きていたケースでした。彼女の確固たる私に対する毛嫌いの言葉に対して、私が反感を持つことはありませんでした。

私の名前、吸っている煙草の銘柄、着ていたスーツの色、そのどれもが嫌悪の原因になりえたのです。彼女に私以外のセールスマンと取引したくなるような正当な理由がなかったことを私は確信していました。私は力の限り彼女に購入を促し、そのプロセスの中で敬意と礼節をもって彼女に接しました。

性格の不一致は、それがどれほど偏見に満ちており、不当であっても一人の人間が他人に対して突然嫌悪感を引き起こす、不可解で予測不可能な何かなのです。幸運にも私は過去に同様なことを目撃したことがあり、それをどのように処理するかも知っていました。

私自身、長髪口ひげのヒッピータイプや、私の事を「おじさん」とか「オヤジさん」など呼ぶ若者たちが苦手でした。しかし、彼らがお客様であり、他の人たちと同様にお金を払うのだということを認める努力をしました。

昔ある素晴らしい営業マンと同じ職場だったのですが、彼はタバコのパイプに対して反応する何かを持っていました。彼のプロスペクトがパイプを取り出した瞬間に激怒するのです。(まるで催眠術にかかったように)それまでどれだけその客とことが好きだったかは関係ありません。

彼がその事実を認識して最適な方法で自制し始めるまでに、その怒りが原因でどれだけの商機を逸したかは、「神のみぞしる」です。 

今まで人間のちょっとした欠点や習慣に過剰反応するセールスマンをたくさん見てきましたし、同様の特性をもつ顧客も多くいました。ある顧客は色付きの眼鏡をしている営業マンは信用できないので取引しないと言っていました。チューインガム噛んでいるようなプロスペクトは未熟な人間に違いないと主張する営業マンもいました。

性格の不一致があるとき、どのように対処すればよいのでしょうか。タッグです。交替するのです。それが唯一の解決策です。どんな理由であれセールスマンがプロスペクトに対して敵対心を感じたら、それがまともな理由であろうが、そうでなかろうが直ぐにタッグを組んだ相手にタッチ交替し、その場の情景から姿を消しなさい。

あなたがプロスペクトに対して不合理な嫌悪を抱いている場合、彼に何かを買ってもらうのはどんなに頑張っても無理です。別の人につなぎいで退却すれば注文が取れるのに、わざわざ失敗するようなことをしなくても良いのです。

<あの人は若すぎる>

ウェルドン夫人は優しい年配の方でしたので、喜んで応対させていただいていました。しかし、彼女は若い世代を嫌がりました。センスが悪く軽はずみで、何にも値しないと言うのです。

もし、その朝彼女が来ることを知っていれば、クリフをつけることはありませんでした。彼は生まれながらの素晴らしいセールスマンでしたが、若かったのです。

彼がドアを通って入ってくると彼女にしゃべりかけただけで、言うことすべてに対して反発し、腹を立て、言い争ってきたと言っていました。

幸い、彼は被害が大きくなるまえに私に相談してきました。彼なりに誠意を尽くし、年配者にたいする尊敬の念をもって接したけれども、どうしても彼女に受け入れられないとのことでした。

「クリフ、今から性格の不一致のケースを実地体験してもらうよ。将来それに備えることができるからね。これは片側一方向のケースだ。彼女がその片側で、君に反感を持っている。しかし、私は両方がお互いに嫌悪しあう両側双方向のケースも見たことがある。今から君と彼女にオフィスに来てもらって、彼女の嫌悪感を利用してクロージングに挑戦するところをお見せしよう。言い換えると性格の不一致を利用して勝ち取った売上を君にあげよう。
覚えておいてくれ、私が言うことはすべて売るためで、君は悪くない。彼女がそういう状態なだけなんだよ。

オフィスに戻り、クリフが落胆しながら不安そうに見守る中、私はウェルドン夫人に語りかけました。

「おはようございます、ウェルドン様。ようこそいらっしゃいました。」

実際に観察できたことですが、彼女はクリフが対応して時よりも落ち着きを取り戻し、満足そうに椅子に腰かけました。

「おはよう、デイン。お久しぶりね。私はこの子が憎いわけでもなんでもないのよ。ただ...」

「何をおっしゃいます。クリフはまだ若くて、まだまだ教え込まなきゃならないことが、たくさんありますから。この若い子と話をしていて場違いな感じを持たれたのですね。私にお任せください。」(訳注 ここでデインは傾聴と同化の技術を使って親近感を高めています。1-5の<マイクの一言>を参照してください。)

「さてこれがお望みの車ですか。」私は仕様書と取って中身を読み始めました。

あなたが勧めるなら、それが私の望みの車よ。色も好きだし、オートマティックだし、何よりもあなたが言うことを信じるわ。ああそうだ、もちろんこの若者の言うことも。」

その若者に小さい針をチクッと差し込ませるチャンスを彼女に与えてあげるだけでいいのです。何らかの理由で、おそらく若さに対する敵意のせいで、彼女はもっと年上の人からしか買わないと決めており、クリフについても、自分は彼を信頼しておらず、彼からは買いたくないということを言いたかったのでしょう。

このことがあった後でさえ、何か問題があって彼女が店を訪れるときの状況は同じでした。クリフが対応しようとするとただ「ありがとう」と言いながら私を探しに来るのです。私が特に気に入っているわけではなく、ただ彼女が注文する相手としてふさわしい年齢だったからです。

<マイクから一言>

プロスペクトに限らず人間は皆、過去の経験に捕らわれています。それが、良い経験であれば問題ないのですが、トラウマになるような、ひどい経験を引きずっている場合があります。「あのデインとかいう人を私につけないで」の婦人のケースの性格の不一致を引き起こしているのが、彼女過去のつらい経験に対する反応である場合、事は深刻であり、あなたの努力ではどうしようもできないのです。この場合、あなたが1章で説明しているような傾聴の技術やコミュニケーション術を駆使しても、相手からの親近感や信頼感が高まることは有り得ません。想像してみてください。もしデインが、婦人の離婚した男と風貌や声が似ていて、別れた原因が家庭内暴力であったらどうでしょう。その婦人が昔、結婚詐欺にあった時の、言い回しをデインが知らぬまに使っていたとしたら、どうなるか想像できますね。

あなたが消費者向けの営業をしていて、不特定多数のプロスペクトとの商売をしているのであれば、上記のような問題があった場合、他のセールスマンに交代することができます。しかし、あなたが大企業で法人営業をしていて、ごく少数の相手と商談する立場にいたら、性格の不一致(ひどい場合、相手のトラウマ)は、はるかに深刻です。交代する自由度がほとんど無いからです。あなたが自動車会社の専属代理店の営業マンで、メーカーの担当やその上司があなたに、解決できない性格の不一致を抱えていたら、更に深刻です。あなたが消費者向けのビジネスの営業マンであっても、もし、次の新任の上司との性格の不一致がある場合、あなたがどんなに頑張っても、良い評価を受けることはありません。その上司にあら探しをされ、上層部に欠点や能力不足を報告されます。彼は、あなたが病気寸前になるまで抑圧しつづけます。うつ病などのストレス性の病気の本当の原因は長時間労働よりも、人間関係である場合が多いのです。

ちょっと暗い話になりましたが、職場の人間関係で最悪の状況に陥っているときの解決策は簡単です。一刻も早く、その職場を辞めて、新しい職場を探すことです。そのために、どこに行っても活躍できるだけの能力をつけることです。この教材に書いてあることを何度も読み、理解し、日常の営業活動の中で実践し続ければ、あなたが、「どこに行っても通用する人間」になるのに、それほど時間はかかりません。遠回りしないでください。私の言葉を信じてください。読み続けてください。そうすれば、あなたは営業マンとして成功するだけなく、人間をしての成功と幸せをつかむことができます。

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