それはプロスペクトを特徴づけるすべて事柄によって決まる
決定ボタンとは何でしょう。それは面子を保つものです。見込み客は、「この男は、自分のことを楽勝な相手だと思っているかもしれないが、買いたいものは、自分が買うべきときに買うのだ。すぐに買うことはない。」と無意識のうちに、自分に言い聞かせています。
これまで、あなたは客の甲冑をもぎ取り、クロージングしやすい状態にしました。今度は彼に決定するという行為が好きで、もとから彼の判断で買うつもりだったように会話を運ぶのです。なぜでしょう。理由は二つで、その購入はもともと彼の考え、彼自身の決定事項だったとすることで彼の面子を保つということが一つ。もう一つは、彼の無意識レベルでの売り込みへの抵抗を、意識レベルでの購買への欲求にもっていくということです。
決定ボタンは、それぞれのプロスペクトの人格、家庭環境、職業、容姿や彼を特徴づけるすべての事柄によって違ってきます。
ジムを最初に職場で見たとき、きっと優良な営業マンになるだろうと思いました。人当たりがよく、ハンサムで、素晴らしいパーソナリティーを持っていました。説得力があり、こざっぱりとして、話上手でした。要するに生まれながらの営業マンだったのです。売ることが大好きです。筋骨たくましく、身長は6フィート4インチ(193センチ)、体重は、285ポンド(130キロ)ありました。
しかし、撃沈してしまうのです。見込み客10人中、8、9人を逃してしまうのです。彼は売り込みへの抵抗の原因となっているレンガを取り除く、最高レベルのスキルを持っていました。
私はその会社でクロージング担当営業をやっていましたので、ジムと幾度となく営業の現場に出かけました。彼のアプローチに問題はありません。見込み客に合わせて会話の中身を変化させることもできたし、説明の仕方も非の打ちどころがありません。
にもかかわらず、クロージングの段階で、何度も何度も失敗するのです。決定ボタンを見つけられないからです。このことは、彼のプロ営業マンとしてのプライドを傷つけ、このすばらしい男が、ほかの仕事を探すことになりかねませんでしたが、彼の行動を1ヶ月間観察した結果、彼のある弱点を発見しました。
彼はあまりにも熱狂的すぎました。熱心ではなく熱狂なのです。熱狂的なことの何がいけないのか。営業で成功するための重要な資質じゃないかと思う人もいるでしょう。そうとは限りません。特にこの場合は。
ジムの許しを得て、私は営業所で彼がクロージングに取りかかるところを録音させてもらいました。最終段階(決定ボタンを見つける段階)の直前までは全く問題なかったのに、そこまで来たときに撃沈してしまうのです。
一体どのように。彼のしゃべり方や態度で、私が指摘できるところは何もありません。録音を聞いてみると確かに熱狂的に聞こえます。タイミング的にも不自然な感じはありません。そろそろクロージングできそうだと思っていると、なぜか客を逃がしてしまうこともあれば、本人ではクロージングしきれずに応援要請の電話を入れるのです。
私は、ほとんど決まりかけの案件が失敗に終わった原因が、彼の言動ではなく彼の行動にあるのだと断定しました。もう一度彼にお願いし、今度は事務所を出てもらい、ショールームでの会話の様子を、その近くでうろうろしながら聞かせてもらうだけでなく、見せてもらいました。
そしてある日、非常に小柄な客を迎えたときに問題を発見しました。その客は身長5フィート(152センチ)ほどで、体重も125ポンド(51キロ)と痩せていましたが、ジムは自分では気づかないうちにこの人を圧迫していたのです。彼はプロスペクトを体格と熱狂で圧迫していたのです。
ジムは机に座り、プロスペクトは反対側から椅子に腰かけ、彼と対面していました。まさに決定ボタンのところにたどり着いた時に、彼は突然身を乗り出して、客に覆いかぶさるが如く距離を詰めていました。客はこのがさつな大男に恐怖感を覚えていたのです。
解決は容易でした。私は二人に近づいてゆき、客に挨拶し会話に参加させてもらうため、ジムに椅子を譲るように言いました。彼は私が気でも狂ったのではと思っている様子でしたが、回転椅子を私に譲りました。
その時の客の反応を見て、私は自分のやっていることが間違っていないと確信しました。
客はさっと立ち上がり私に言ったのです。「僕の椅子を使ってください。座るのに疲れました。」
彼が言いたかったのは、「迫りくるこの大男にほとほと疲れた。自分がチビであることを痛感させやがって。でも、この低レベルの大男から買う義理はない。」
「ジム、私の机の椅子を持ってくるのを手伝ってくれないか。年のせいで腰が痛むんだよ。」
彼は、私の腰が悪くないことを知っていましたが、察したとみえて私についてきました。机のそばで私の理論を彼にざっと説明しました。
「ジム、お客様のところに戻った時、彼を椅子に座らせないようにしてくれ。代わりに君が椅子に坐って決して動かないようしてくれ。絶対にそうしてくれ。彼が床に座ろうとしたら仕方ない。そうさせたまえ。でも彼を椅子に座らせてはだめだよ。」
その後のことは見ものでした。その小柄な客は資料をジムに突き返したり、後ろから近づき机にもたれかかったり、対等になった気分を十分に味わいながら契約書にサインしました。
この時の決定ボタンはなんだったか。それは、体格、その小ささを気にしていたということ、ジムの背の高さや男らしい体格にコンプレックスを持っていた点です。
後から分かったことですが、ジムの体格と熱意は、普通は有利に働くはずが、平均的な体格の人たちにも不利に働いていたのです。彼はクロージングが近づき、決定ボタンが押せそうになると、熱意があり余り過ぎた状態となって、プロスペクトに向かって体を寄りかかるように傾斜させるという癖があり、彼が椅子から飛び出し近づいてくると、彼と同じくらい体格の良いプロスペクトでさえも威圧されているように感じていたのです。それに対する対抗手段はノーという返事を出すことだったのです。
ここでの解決策は簡単です。ジムに椅子におとなしく座らせて、お客様に自分のことをより大きく感じさせることだったのです。
「椅子に座ってなさい。」という言葉は、あなた自身をお客様に合わせなさいということを言っているので、営業プロセスでのあらゆる段階で、いろんな意味において重要なことなのですが、この言葉が最も重要となるのは、お客様の決定ボタンに手が届きそうになったときなのです。
覚えておいてほしいのですが、プロスペクトがまだ鎧兜(よろいかぶと)で身をまもっている段階では、あなたからの売り込み攻勢があっても、まだ安全だと感じています。売り込みに対する抵抗、つまり鎧兜が取り除かれてしまうと状況は変わります。彼に残された最後の手段は、ノーということを言えるということなのです。あなたの売り込みへの抵抗から身を守っていたものを剥がしとられてしなっているので、何とかしようと対抗手段を探し求めます。お客様に対して自分の言い分をがなりたてて、決定ボタンを見つけられない状況を作ってはいけません。その時あなたは自分のパーソナリティーをお客様に合わせてないのです。
<マイクから一言>
レスデインはプロスペクトの人格、家庭環境、職業、容姿や彼を特徴づけるすべての事柄によって、決定ボタンが何になるか左右されると言っています。ボタンとは相手の心のしこりを取り払うための言葉や行動です。決定ボタンとは買おうと決めることを制御してしまう心のしこりを取り去るためのボタンです。後述されていますが、決定ボタンにたどり着くためには、プロスペクトとIdentifyする(同化する、一体化する)必要があります。最初の例はフィジカルな面での話でしたが、その人とエモーショナルな面で同化する(感情のトーンを合わせる)ことも驚くべき効果があります。感情のトーンをおおざっぱに分けると、低い状態(恐れ、怒り、秘めた敵意、陰鬱、悲しみなど)、中程度の状態(退屈、保守的、穏やかな興味など)、高い状態(快活、高揚、強い興味、熱狂、幸福感など)に分かれますが、プロスペクトとあなたのエモーショナルなトーンがかけ離れていると決定ボタンにたどり着くことはできません。相手のトーンにある程度合わせる方が有利なのです。相手のトーンを合わせる具体的な方々や、決定ボタン以外の3つのボタンについては別途お教えします。


