トップ営業マンの傾聴の極意

数年前、負けたと感じた売り込みをしたことがあります。少なくとも半年間でした。この半年という期間が、プロスペクトの反論のベースになっていました。

その客は、私が働いていた会社にコンタクトし、6か月後に5台の小型トラックが必要となる大きな仕事が取れるとセールスマネージャーに言ってきました。

彼は街はずれで、自動車修理工場をやっていたので、私は車を飛ばして、訪問しました。歳は30代前半くらいの若い人で、彼の工場や設備の様子から、堅実で、活発な商売をやっているように見えました。

小型トラックについて話をしましたが、彼は、これから6か月間は、買える状況ではないと明言しました。公的機関からお金を借りて溶接業をスタートさせるために、中小企業向け担保付き貸付を申請していたのですが、役所が言うには、申請内容については問題ないが、書類審査に約半年はかかるだろうとのことでした。私は、役所がどんなところか知っていたので、その言葉を信じ、彼には前に進むことができない正当な理由があるのだと感じました。

実際に、彼はそれ以上先に進むことが、できなかったのです。

それとも、できたでしょうか? 私は、彼に話をしてもらいました。売り込みの始めの段階で、思わぬ障害にぶつかった場合、営業マンがとるべき行動は、話をせずに、聞くということです。彼が本物の見込み客であるならば、よくあることなのですが、彼自身の反論をどのように乗り越えるのかを、彼自身が教えてくれるのです。

この人には、溶接業を立ち上げたいという強い意志があります。その計画は、小型トラックに溶接機を乗せて動き回り、大型トラックにスペアパーツや機材、消耗品などを乗せてバックアップとして使うというものでした。彼には溶接や、さまざまな機械や器具の修理の経験がありましたし、喜んで立ち上げに参画してくれる頼りがいのある仲間たちも集めていました。

この事実を知ったのは、あれこれ質問や示唆をすることで、本質的に客が話し続けることを聞き続けたからでした。そして、アイデアが浮かんだのです。

「ポーターさん、役所に出す申請書類に必要な財務諸表や資料を見せて頂けませんか?」

「この事務所にあるよ。」と言って、彼は机の引き出しから申請書類のファイル取り出して見せてくれました。

「ありがとうございます。ポーターさん、不躾なお願いかもしれませんが、申請書類の作成の協力をさせていただけませんか? 今狙っている条件と同じか、あるいは、もっと良い金額を取ってくることができれば、この話、前に進めていただけないでしょうか? もちろん、御社の弁護士の了解があっての話ですが…」

「融資機関との折衝は自分でやるつもりだったけれど、時間がかかるのは目に見えているよ。もし、君に何か手配できるのなら、お願いするよ。うまくいけば、もちろん話しを前に進めるさ。僕は、自分のアイデアが正しいと信じている。だから、この融資を取ってくることができて、入金したらすぐに、小型トラックの注文を出すよ。」

私は、その場で、自分の銀行に電話を入れ、ローン担当者に、有望な見込み客を紹介できる旨を話し、面談のアポを取りました。

「デインさん、その銀行は、無理だよ。前に、担保不十分ということで却下されたよ。車両には、故障や損傷のリスクが有ったからさ。君が話した人ではなかったが、その銀行は融資を断ったんだよ。」

「ポーターさん、私が話した男は私のことを良く知っています。私が怪しい話を持ち掛けるような人間ではないことも知っています。そんな話しに乗るような奴ではないですが…兎に角、彼と話をさせてください。話すことで、失うものは何もないですよね。」

その夜、融資機関が発行している融資申し込み説明書をじっくり読んだ結果、自分がうすうす疑っていたことが書いてありました。その融資には、いくつかの銀行が絡んでいて、その半分を政府が保証し、残りの半分は銀行が保証していたのです。

次の日、ポーター氏を伴って、融資機関からのレターという武器を手に、銀行を訪れ、私の提案を説明しました。

政府への申請書審が審査に回っている間、銀行は、ポーター氏がすぐに、溶接業のスタートを切れるように、その必要資金を提供するというものでした。

銀行は、そのトラックという担保物件を抵当として受け入れ、政府が融資を許可した段階で、手を引くかどうか決めるというものでした。

銀行は、書類審査を進めて、一週間もしないうちに融資金を出してきました。政府からの融資が却下された場合、ポーター氏の月々の返済は増えてしまうはずでした。銀行の融資期間は2年半、政府のそれは5年だったからです。幸い融資申請は受理され、彼は、溶接ビジネスを手にすることが出来ました。

私は、小型トラックの注文をもらい、溶接機材の代理店も紹介しました。5台もの溶接機やその付帯設備が同時に売れることは珍しく、その代理店に恩を売ることにもなり、後に別件で、その恩を返してくれることにもなりました。

前述した通り、ここでのレンガを取り除く鍵は、「聞く」ということです。彼の話を聞くことで、その全体を把握し、話し続けさせることにより、彼に自己説得を行わせ、自分で決断ボタンを押させるのです。その際、彼に手を貸す必要は、ほとんどありません。

ここで、もう一つ重要なことがあります。金融関係者と仲良くしておくということです。彼らに自分が信頼のおける本物の営業マンであることを認識させておくのです。お金という障害が発生したときに、彼らのところへ連れていき、成り行きを見守るのです。銀行は、融資契約を取るためには、努力を惜しみません。全力を尽くします。そして、彼らの努力を借りて、あなたは注文を取るのです。このことについては、更に後述します。

いくつもの反論が同時に出てくることもありました。経験上言えることなのですが、そんな時は、どちらかと言うと、より簡単なのです。自分は前面に出ず、それとなく示唆したり、ほのめかしたりすることで、話をさせることに徹するのです。すべては、契約をクローズするという目的のために。

結論として、相手が正当な反論もしくは、躊躇の理由を持っている場合、あなたがすることは、彼自身が話すことを促し、自己説得させてゆき、最後に障害を自分自身で克服するのを待つのです。

そのことに失敗したとしても、やはり、傾聴しつづけることで、彼の反論を生み出している背景全体を聞き出し、レンガを取り除くための、手助けの方法を見出し、彼が契約にサインする準備をすべきなのです。

<マイクから一言>

傾聴ということに関して、別の切り口からアドバイスします。セールスマンにとって、聞き上手であることは、なぜ重要なのでしょう?ニーズを的確に把握して、次の一手を考えるため?売り込みへの抵抗を処理し、クロージングのきっかけとなる状況をため?競合相手が、どんな見積りを出してきているのかの情報を得る?あなたの頭の中で、さまざまな答えがあると思います。すべて正解です。しかし、心にとめて欲しい本質的なことがあります。それは、聞き上手であれば、相手がリアルに感じていることを、聞いて、理解し、共感し、自分の共感を相手に言葉で示すということを積み重ねることで、プロスペクトとあなたの人間どうしの親近感を高めることができるということです。親近感がない状態で、売るために相手のニーズを聞き出そうとしているのがみえみえだと、なかなか良い方向には進んで行きません。時により、商売から離れて客を一人の人間として見たとき、一般的なことでもよいので、あなた自身が相手に対して心から興味を持てることを話題にしてみましょう。なぜならば、客にとって、自分自身のことは、ものすごくリアルだからです。この時、相手について、心から興味が持てる部分が見えてきており、それについて、自然と質問がでてくることが大切です。それは、プロスペクトの部屋に飾ってある何かの表彰状だったり、客がしているネクタイの柄だったり、ちょっとした悩み、あるいは自慢話かもしれません。大事なのは、お互いが共感しながら親近感を高めるということです。ここで注意しなればならないのは、興味がわいていない状態で、不自然な会話の流れで、唐突に話題を求めて質問すると親近感を下げてしまうということです。「すてきなネクタイですね。どちらで買われたのですか。」という質問が、歓迎されるかどうかは、あなた自身が、ほんとうに、その人のそのネクタイに興味を持っているのか、自然な流れで聞いているのかによって決まります。 最後に大事なことを言います。プロスペクトに、自分の商品を買ってもらうために、ローンしてもらうことを勧めるための土台は、信頼感と親近感です。

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