プロのバイヤーへのクロージング

営業マンの多くは、プロスペクトの人格売込みへの抵抗の大きさ(レンガ造りのよろいの頑丈さ)の2つ、あるいはどちらか1つで分類してしまいます。

それも結構ですが、もっと簡単に分類する方法があります。これらによって、営業活動がシンプルになり、クロージング中の波風を静めやすくなります。より多くのプロスペクトに接することができ、満足度も高まります。

これを営業マンたちに教えようとすると、ベテランも新人もほとんど全員が、初めは懐疑的になります。分類方法があまりにも当たり前すぎて、プロスペクトをこんな当たり前のことで分類することはできない、と感じてしまうのです。

しかし、このアプローチを使ってみると、意図した通りの結果が出ることがわかります。効果的で継続的なクロージングが可能となります。最短時間と最小の手間で可能になるのです。

<秘訣>

プロスペクトを分類するには2つの言葉が重要になります。状況信頼です。

紙を一枚出して、プロスペクトのタイプを25種類書いてみてください。既婚の左官職人、独身の教師、既婚の弁護士、離婚経験のあるトラック運転手などなど。

これらの25人はそれぞれ随分違うように見えますが、必ず4つのカテゴリーのうちの1つに正確に分類できます。分類の境界もはっきりしており、それぞれのカテゴリーで同じことが起きる可能性も高いのです。

 

<4つのグループ>

前述の25人のリストには、法人バイヤー、ファミリー客、個人客、独身女性客に当てはまる人たちが、繰り返し出てきます。そして、どれもこの4つのカテゴリーのどれかに当てはまります。それぞれのグループの中で、個々の事情は異なりますが、そのグループから発する特有のプレッシャーや影響は合致します。そのグループ特有の事情を理解すれば、クロージングは半分成功したようなものです。

成功につながるもう半分は、信頼です。昔から言い古された言葉ですが、プロスペクトの信頼を得ることの重要さは誰もが認識していることです。特に、クロージングの際に、信頼を獲得していることが重要になってきます。

来る人をあるがままに受け入れて、効果的にクロージングするための秘訣は、プロスペクトを分類し、そのグループ特有のルールに従って信頼を得るということです。

 

<法人バイヤーへのクロージング>

あなたが、売ることを仕事にしているように、買うことを仕事にしている人たちはどうでしょう。この人たちは、売り手のあなたに対抗する様々な技を知っています。値下げ交渉や、納期の前倒し、競合との戦わせ方、あなたのすべてミスを逆手にとる等のテクニックを持っています。あなたを動揺させ、安売りさせたり、利益を犠牲にするような納期を受けさせる方法も知っています。

この手のバイヤーの信頼を得るための秘訣は、周到に準備することです。訪問し、PR用にされた製品の統計資料を見せれば、いきなり買ってもらえるなどという甘い考えは通用しません。

豪華な会食や夜の遊興接待で、簡単に注文が取れるなどと思ってはならなりません。彼はプロですから、あなたからの接待を受けていても関係ありません。他社が、彼が求めているものを提示したなら、彼らが売り込んでいるダンプカーが満足な性能を持っている、あるいは鋼材やコンクリートを時間通りに納品できることを証明したなら、彼は迷うことなく、他社に発注するでしょう。

 

<事実を示してクロージングする>

この手のバイヤーは、事実を見せて証明することを要求します。彼は室内装飾品や、バーベキューコンロ、あるいは保険商品を買うのではありません。彼が買うのは事実であり、それ以外の何でもありません。

彼は、あなたが様々な数字のデータを準備し、片方の耳から注ぎ入れてくれることを知っています。そして、聞いたことは、反対側の耳から出してしまいます。彼は自分の目で見て確かめたいのです。言葉の説明は、嫌というほど受けているのです。

法人バイヤーが購買のテクニックを持っていることは、誰もが知っていることです。一方、彼は、売るテクニックの事をもよくわかっています。以前、営業担当だった人は少なくありません。少なくとも営業の世界をよくわかっています。自分の会社の利益をよく理解しており、会社側もその辺りをよくわかっています。そうでなければ、彼を購買担当者に抜擢することはなかったでしょう。

他のタイプのプロスペクトとは違う点を認識して、彼らからクロージングを勝ち取りなさい。その違いは、彼のセールス術と購買術についての知識です。彼には事実を売り込みなさい。根拠が確かな価格を提示し、可能な限り製品やサービスをデモで売り込みなさい。相手のネクタイを褒めるようなわざとらしい営業手法は相手を硬化させるだけです。彼の時間は限られていることを認識しなさい。お世辞や甘い言葉を言うためではなく、製品やサービス内容を語ることに時間を使うこと。

 

<ビジネスを理解せよ>

率直で要領を得た、真面目なアプローチをとりなさい。自分が何を話しているのかを、きちんと分かったうえで、説明しなさい。そして、プロのバイヤーからクロージングを勝ち取りましょう。

「グレッグさん、私はアマルガ製鉄のジョー・ペリーです。アクメ・オフィスビルの建設に使う鋼材について、御社と数字をはじきたいのです。うちも入札したので、御社がずいぶん低い価格で落札されたのは承知しています。」

「そうですか。御社も入札したのならうちの入札価格が低すぎたことはご存知でしょう。全く、こんな価格でどうやって鋼材を購入できると思っているのか...」

 

<一歩先んじて>

“おっしゃることはわかります。だからこそ、今日お話したかったのです。弊社では入札の最初から最後までを、営業部門と技術部門が合同で担当します。落札できなかった場合でも、弊社の営業は、仕様と要件を熟知していますので、落札社に対して最低価格で鋼材を供給できます。」

「御社の本社はセントルイスですよね」

「そうです。しかし、落札を想定して、鋼材の7割はここから5分のところにある倉庫に保管してあります。残念ながらプロジェクトの落札には至らなかったので、その鋼材を落札社に供給できます。」

「なるほど。あなたのアイデアですか。」

 

<宿題をやっておく>

「いいえ、私のアイデアではありません。ただ、ご説明させてください。」

「ここをご覧ください。要求仕様は10インチのH型鋼でした。鋼材95トン以上になります。入札の時に、メモを入れておいたのです。H型鋼の代わりに溶接アングルを使わせて欲しいと。コスト13%安くすみますから。13%は大きいですよ。溶接と言っても、経験年数2年程度の職人が、簡単な治具で出来る程度のものです。」

「13%も安いんのですか。だとしたらずいぶん助かります。実は今回の入札はかなり無理をしたのです。スペックシートを見せてください...そうですね、使えますね。で、お宅の提案を向こうは承諾したのですよね。これは、社内に回しておこう。」

この営業マンが、巨額の受注を成功させたのは、あらかじめ、きちっと宿題をしておいたからです。彼は鋼材ビジネスを熟知しており、そのゼネコンが鋼材を購入することを把握していました。その上でより安い鋼材を提案し、契約を成立させました。

 

<新顔に売り込め>

このケースでは、この営業マンは、購買担当者が自社の技術者に相談した場合に備えて、その技術者に売込む準備もしていました。実際に、現場で鋼材を扱うことになる技術者を味方につけることができたら、営業活動はさらにやり易くなっていたことでしょう。

「スペルさん、 弊社の考えを説明するために、簡単な治具の図面を描いてきました。私は技術者ではありません。ただ、グレッグさんに説明したように、この梁材は、バック・トゥー・バック溶接で製造されています。溶接時間を入れて、間接費込みでも、骨組みの総コストが13%節減できます。更に軽量で、強度も7%アップします。検査する側にとっては仕事が楽になります。そうですよね。」

「グレッグ、実は私も同様のことを考えていたんだ。こういうことができないかな、って。」

購買担当者や決定者が複数存在する時や、上記のような場合は、新顔により重きをおいて売り込みなさい。味方に付けるとクロージングが楽になります。

法人の購買担当者に対するクロージングの注意点を要約すると次のようになります。

1)彼はプロの購買者で、恐らく、かつては優秀なセールスマンであり、売り方のコツを熟知している。

2)自分の購買者としての仕事で何をしなければならないかを十分理解している。

3)会社が彼に何を望んでいるか、それをどうやって実現するかを理解している。

4)彼が求めるのは、最少の出費で、最良の商品やサービスが買えること示す事実、デモ、証拠である。

彼に通用するトリックは多くありません。事実、デモ、納得のいくセールトークくらいです。猿芝居や半端な事実、曖昧な約束は通用しません。

 

<マイクから一言>

法人営業を長年やっている人たちにとって、当然の話が書かれています。プロのバイヤーは、コスト比較、性能比較、納期やサービスの比較、信頼性、安定した品質、会社自体の信用、今までの実績などのすべてが事実に基づいての競合相手との比較であり、私情が介入する余地は無いということです。プロの法人営業マンは、日々、上記のパラメーターの中で、自社製品が優位なものを選び、それらを最高の方法でPRし、優位でないものは、正直に認めるか、話題に出さないかを決めながら活動しています。

しかし、法人営業においても、親近感、リアリティーのシェア、コミュニケーションの量の三位一体説や決定ボタンの理論、3つの心のボタンなどの理論は、重要な原理原則となります。

法人のバイヤーは冷徹ですが、血は通った人間でもあります。人工知能を持ったロボットではありません。人間の本質に訴えかける技術を駆使しながら、プロのバイヤーを自分の味方に付けましょう。