タッグチームでのクロージングテクニック (本筋とのタッグ)

タッグチームによるクロージングと前述の「交替作戦」は違うものです。「交替作戦」の場合、セールスマンが接客しているプロスペクトのタイプによって適用されました。彼は即座にプロスペクトに気づかれないように、その客に対処するのに一番合ったセールスマンを呼び入れました。
あなたは、テレビのプロレスの試合でタッグを組んでいるレスラーを見たことがありますか。一人が試合を始め、打ち負かされ、スタミナ切れになると、もう一人が引き継ぎます。タッグ(タッチで引き継ぎ)を効率的にやったチームが相手を完全に弱らせて、最後にはフォールに持ち込み勝つのです。
タッグチームでのクロージングテクニックも同様に効果を発揮します。一人のセールスマンがプロスペクトとのやりとりを開始し、ある程度の段階までもっていき、セールス・マネージャーや他のセールスマン、あるいはクローザーにタッチで引き継ぎながら、楽にクロージングできるようになるまで、徐々にプロスペクトをへとへとにさせるのです。
タッグチームの有利さは、プロスペクトにはタッチで引き継ぐパートナーはおらず、一人でセールスチームに直面しなければならない点にあります。彼は売り込みへの抵抗が溶け、レンガが崩れ落ち、買う瞬間に近づいて行くのを見ているしかないのです。
しかし、実際どのようにタッグするのでしょうか。プロレスラーがやっているように、パートナーの手をひっぱたくという単純な行為よりは、少しばかり手が込んだことをやらねばなりません。

手際よく、臨機応変に、たいへん慎重にやらなければなりません。失敗すると、プロスペクトは気分を害するか、警戒し始めるので、クロージングが不可能になります。
タッグの方法は、5つのカテゴリーに分類できます。それぞれが違った条件で採用され、戦いの半分は、正しいタッグを組むかどうかで決まります。
おそらく、最もよく使われるアプローチは、「本筋とのタッグ」と呼ばれるものです。 上司やクローザー(クロージング専門の営業マン)、T.O.(営業マン教育の責任者で、現場にも出る人)などの信頼すべき権威筋とタッグを組むので「本筋とのタッグ」なのです。
あなたはプロスペクトとやりとりで、値段、納期、その他解決すべき条件について、できる限りの譲歩をしたにも関わらずクロージングできていない状況にいます。

もちろん、あなたも経験的に持ち球のすべてを吐き出さずに、上司やクローザーの為に、活躍の余地を残しておいたほうが良いことも知っています。

この時点で、あなたはプロスペクトが権限者である自分のボスから話を聞くことで、それまであなたが伝えてきたことや、クローザーがこれから伝えようとすることを真実だと思ってくれるはずだと、自分自身で確信していなければなりません。
それと、大切なことですが、プロスペクトには具体的にどう言いますか。「ジョーンさん。どうも、私の言うことは信じていただけないようですね。それでは、私の上司に説明させます。多分、信じていただけると思います。」これは、ダメな言い方です。
もし、営業マンが私に対して、そういう言い方をしたら、途端に防御の姿勢をとりますし、決して契約を決めることはないでしょう。ほとんどのプロスペクトも、同じに違いありません。
あなたは手際よく、さっとタッグする(パートナーに引き継ぐ)のです。その時、無駄な動きや遅れは、絶対最小限でなくてはなりません。さもなければ、その契約は永遠に失われます。

<本筋とのタッグ>
「本筋とのタッグ」は、プロスペクトが「もしxxの条件をのんでくれるなら、今日契約してもいいよ。」などと言い出すのですが、その条件はあなたの権限外である場合です。
あるいは、もし納期を来月末にしてくれるなら契約できると言われているが、その納期は無理そうだと感じている、もしくはそれが可能かどうかわからない時です。
あなた自身がコミット(約束)すること、決定することができないところまで来たときは、もっと権限を持っている人間と組むのです。
プロスペクトを置き去りにしないようにしてください。自分より上の誰かを探すのに席を外すということは、その間に議論したり、それまでの経緯を説明したりする必要があるということを意味するのです。上司と議論している間にプロスペクトは、せっかく取り除いたレンガを取り戻し始めます。こうなると、また最初からやり直し(もとの木阿弥)です。まさに、戻ってくるのが遅すぎなのです。
ある有能な営業部長や課長は、クロージングの手伝いは彼の部屋(注:日本の場合は応接室)で行うと決めていました。なぜか。それは、彼が大物の雰囲気を出したいからでもなく、彼が怠惰だからでもありません。
それは、権限者のサポートが必要な時は、その重みと威信を一番感じとれる場所が必要です。あなたのプロスペクトを部長のところに連れて行きなさい。彼に紹介し問題になっていることを説明しましょう。彼に権限を行使させなさい。それがもっとも効果的に映る場所、重厚な机のある部屋の中で、行わせなさい。
あなたが、上層部にサポートを依頼すると決めたなら、その事をプロスペクトに言ってはなりません。「ジョーンズさん、それだけの量の鋼材を60日以内に納品できるかどうか僕には判断できません。部長のところに行って、彼がどういうか聞きに行きましょう。」などと言った瞬間、そのプロスペクトに口実を与えてしまいます。
彼は、こう言えば良いだけです。「君が話しておいてくれ。どうなったか後から電話で教えてくれればいいよ。」あるいは、「そんな手間をかけてもらわなくていいよ。次の機会にしよう。」などです。
もっと良い言い方があります。「待ってください。ちょっといい考えがあります。ジョーンズさん、いっしょに来ていただけますか。今すぐ、何とかします。」
そして、ドアを開けて出ます。彼は礼儀としてついて来るでしょう。いて来たくないかもしれませんが、必ずついて来るでしょう。立ち止まったり、歩速を緩めたりしてはなりません。助けを求めようとしている人のところに、まっすぐ進み、そこで彼の助けを得るのです。
場所が、プロスペクトの事務所であれば、助けを得るために電話しましょう。しかし、そのことを言ってはいけません。上司が電話に出たら、手短に問題になっていることを説明し、ジョーン氏に電話を取ってもらいます。彼は、無礼とは思われたくないので、電話を取ります。
他にも、クロージングの際、上層部の助けを得られるような状況がありますが、条件を見極め、あなたが一人では処理できないと認めることは、むしろあなたの判断であり、責任でもあります。
営業マンは皆、それまで見たこともないような状況がクロージングにストップをかけてしまうことがあることを知っています。過去に経験したこともない、長年の経験をもってしても乗り越える手段が無いと思えるようなことです。そのような時は、
一つ、あなたがガス欠であることを認めなさい。動かないエンジンを一生懸命かけようとすることは百害あって一利なしです。せいぜい、何も達成できずに終わるだけです。
二つ、上司とタッグを組みなさい。 彼があなたの上にいる理由は、それに見合った能力や経験があるからです。同じような問題に遭遇したこともあるかもしれません。考えてみてください、営業部長や課長連中は、部下が抱える問題に日常的に対応しています。その対応策を引き出しに持っているかもしれません。引き出しに何もなくても、それまでの経験から対応策を導く能力があるかもしれません。また、岡目八目(注:当事者よりも第三者のほうが物事の是非をよく見極められること)ということもあります。
経営者の娘と結婚したという理由だけで、営業部長になったような人間でさえ権限というパワフルな武器を持っているのです。

<破産する覚悟で納期を守る>
本筋とのタッグの完璧な事例で、業界紙の全国版に紹介された話があります。その中で、正しい相手とタッグを組むことの重要性も強調されていました。
グレッグは、地元で最大級の最も成長著しい建設会社の役員です。10年前に二人の男たちが、大工道具2セットと1台のピックアップ・トラックを元手に、その会社をスタートさせ、現在の企業価値は数百万ドルになっています。
ある時期グレッグは、大手の航空機エンジンメーカーが工場の建設予定地として、この地を選ぶかどうかを知らせる記事に目を光らせていました。その発表があってすぐに、彼はコネチカット州のメーカーの本社を訪れ、その計画について話を聞き、入札書類を提出しました。
訪問して、彼らが入札内容を重要視していないことが分かりました。彼らは3人の人間を当地に送り込み、その地域を調査させ、最も短い納期で建設を終わらせてくれそうな会社を見つけようとしていました。
適任の会社を見つけ次第、膝を突き合わせて値段や引き渡し時期を話し合おうという考えでした。グレッグが初めて知らされたのは、引き渡しの最終期限が絶対に60日という条件でした。契約後60日以内に工場は稼働できなければならず、請け負った会社に対して、遅延一日当たり高額のペナルティーが発生するというものでした。
候補は、3社に絞り込まれました。グレッグの会社と他の二社です。彼は3人と会い、受注獲得にむけて問題点を探りました。成約に至った場合、それは彼自身と会社にとっての大きな飛躍の一歩を意味しました。
数時間後グレッグはメーカーの3人から、彼の会社が最も優位な位置にいることを知らされました。しかし、彼らは引き渡しの最終期限を心配していました。果たして期日までに引き渡せるのか。
会議の最初から最後まで、納期への不安が彼を悩ませていました。彼は営業マンであり、鋼材やコンクリートや建設工事のエキスパートではありません。このような短期間に、この案件に必要な鋼材やコンクリート、その他の数えきれない種類の資材をすべて調達することができるのか、彼には見当がつきませんでした。
その上、天候の予測は誰もできません。誰が最初の30日間は、雨が降りませんなどと言えましょう。
彼は現場の所長に来てもらいました。この人は鋼材やコンクリート、そして天候のリスクをどの程度考慮に入れるかにも詳しかったのです。そのことが、彼が間違いを犯す原因となり、あやうく契約を逃すところだったのです
その時すでに彼は3人の貴重な時間を半日以上取っていました。それ加えて現場監督との会議も3時間かかりました。
現場の所長はこの仕事に必要な知識を持っていまおり、建設工事は期限までに終えることができそうなことを、3人にほどほどに納得させてくれました。しかし、彼には会社を代表して契約書にサインする権限がありません。
最後に3人のうち1人が、グレッグに一日の猶予を与えてくれました。
「君のところで、この建設工事をやってもらいたい。財務諸表の中身も問題ないし、他社の物件での実績も文句なしだ。我々が署名済の契約書をもって会社にもどれるように、イエスかノーか言える人間を連れてきてくれないか。俺たちはもう疲れたよ。」
役員室の中でグレッグは諸条件の概要を説明し、現場監督はこの工事ができそうかどうかについての意見を述べました。
「グレッグ、契約書の中身を詳細まで詰めたのか。全項目確認済だね。」
「はい。弁護士のヤング氏も両社が今の段階で契約上カバーしなければならないことは、すべて含まれているとおっしゃっています。」
「よし、ジョー、この見積り内容の工場を期日の一日前までに建てられるか。普段通りの完璧な仕事をターンキー(引き渡し後、即、稼働開始)の条件で約束できるね。」
「ただ一つ心配なことは、天候でございまして...台風のシーズンが近づいていることもありますので、もし雨が降るようなことがあれば...」
「それは考えなくていい。雨であろうがなかろうが、工場を建てることができるか。週7日間ぶっ続けで作業した場合だ。」
「時間外労働手当や追加で仮設事務所のことも...」
「この工場を建てることができるか。」
「出来ます。」
グレッグの上司は、航空機メーカーの3人の方に顔を向けました。
「皆さん、貴社の工場を建てて見せましょう。近道はしません。資材や労力のカットもしません。ただ、ペナルティーの条項を受けることはできません。私は建設屋です。私の共同経営者も建設屋です。弊社には、この仕事が必要です。この町も貴社の工場を心待ちにしています。我々は、『失敗した場合は』と指さされながら、この仕事を受けることはできません。私どもは必ずこの仕事をやり遂げて、工場の鍵を期日までにお渡しします。納期を守れないことは破産を意味します。失敗できないのです。したがって、失敗した時の条項は必要ないのです。」
これを聞いた3人は、互いに顔を見合わせて、うなずき合い、契約はクローズしました。
全工期のうち雨が降った日は、25日ありました。建設現場は窮地に立たされていました。鋼材の供給が滞り、午後3時に納入されるはずのコンクリートが、夜中の到着になることもありました。にもかかわらず、工場は期限の2日前に完成し引き渡すことができました。客先の重役たちが落成式に来たときは、彼らの名前が駐車場所に掲示されていたくらいです。
グレッグは最初、「受けることができるのか?」の答えをもらうのに、違う権限者のところに行くというミスを犯しました。
現場の所長は無理そうだとか可能かもしれないとか言う立場でしたが、会社としての確約をする立場ではありませんでした。貴重な時間が無駄に費やされ、そのせいで危うく契約を取りそこなうところだったのです。
現在、彼はその会社の営業部長で5人の部下を持っています。もし自分の限界に来たときは、決定できる人をつかまえろと彼らに教えています。中間のところで無駄な時間をすごしてはなりません
本筋のところに行きなさい。

<マイクから一言>
この章では、あなたがクロージングに向けて手を尽くした後にプロスペクトから出てきた価格や納期、その他の条件についての逆提案の承諾可否が自分の権限外である場合は、直ぐに受けるかどうか決定することができる人間を連れて来なさいと教えています。この時、スムーズなバトンタッチと自然さが大事なのですが、同じくらい大事なことがあります。それは、引き継いでもらう権限者に活躍の余地を残しておくということです。それをしておかないと、上司など権限者のお蔭でクロージングできたとしても、大幅値引き、無理な納期を守るための特別コスト、仕入れ先や外注先などの第三者に損をお願いするなど、後味の悪いことになってしまいます。
1つの事例を紹介します。私は1996年頃に、MRIやCTなどの高額な検査装置を製造販売する会社の営業本部に在籍していましたが、本部長からの指事で「価格維持」を目的としたプロジェクトを実施しました。その中で本部の150人以上の営業マンが決めた数百件のCT の契約一つ一つについて初回見積りの段階からクロージングまでのプロセスの詳細を聞き込みやアンケート調査を利用して徹底的に分析しました。その結果見えてきたことの1つが、「低価格受注で利益率の悪い物件ほど、プロスペクトの予算も把握していない初期の段階で、フルオプションで提案していた。」ということでした。つまり、何が起きていたかというと、製品の魅力のカードをすべて見せてしまった後で、予算を楯に値引き要求され、「この値引きさえのめば、契約すると言っています。」などと言って部長や本部長に同行や値引き決済を依頼していたのです。その傾向は、トップ営業マンには少なく、その逆の人たちに多かったということもわかりました。トップ営業マンたちは、上司に同行依頼する際、彼らがいくつかの切り札を少しずつ出しながら交渉できるような余地を残していたのです。耳が痛いことを言う奴だとお思いかもしれませんが、私は安売り王を育てるためにこの教材を提供しているわけではないことをご理解下さい。ここでの教えをぜひ肝に銘じてください。あなたのクロージング数は、減るどころか増えるでしょう。

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