見せながら売る - デモクロージング
<見せて伝える>
何年か前に、教育の革新がアメリカ中で叫ばれていました。この新方式は中学校においては真新しいことでしたが、営業の世界では最も古いテクニックの1つでした。教育者は、それを「SHOW and TELL(見せて教える)」と呼んでいましたが、それの意味するところは、デモンストレーション、略してデモでした。
その教育メソッドは、あるセールステクニックと極めて似ていました。教師は生徒たちに何か興味が有るものを学校に持ってこさせて、それについてクラスで説明させます。
それは、生徒が育てている植物、模型、ペットなど興味を持てるものは何でもありでした。
1人の生徒がクラス全員の前に立って、ペットのワニや飛行機のプラモデルを他の生徒に説明するとき、それは売込みとクロージングと同じことでした。
彼は他の生徒に、彼のペットやプラモデルへの興味を売っていたのです。
それが飛行機のプラモデルであれば、彼は他の生徒何人かに自分もそのプラモデルを作ってみたいと感じさせていたに違いなかったでしょうし、それが芸を仕込んだペットであれば、同様に他の生徒たちにペットに芸をしこみたいと思わせていたのです。
彼は、営業マンのように、入念に準備したセールスプレゼンテーションの資料を作っていました。この仕事をうまくこなせば、ペットやプラモデルについて話すだけでなく、興味を売込み、クロージングしていました。
<海を亘ったデモ>
航空機の販売代理店を経営している友人がいました。彼は州全体と隣接する州の一部地域での販売と部品供給を含めたサービスのフランチャイズ(独占販売権)を持っていました。大規模とは言えない会社でしたが、堅実な経営をしていました。
ある日シティーホールで会った時、彼の会社の販売不振の悩みを打ち明けてくれました。補修と部品供給のビジネスは好調にもかかわらず、航空機の販売が十分な売上に達したことがないと言うのです。
私は、彼の営業のやり方を聞いてみました。どうやってプロスペクトを見つけるのか。法人だけをターゲットにしているのか、個人や愛好家クラブなどにも営業しているのか。プロのセールスマンを雇っているのかなど、いろいろ聞いてみました。
彼は、パイロットの経験がある営業マンが一人いること、新規プロスペクトは、親会社からの紹介や、補修工場に古くてダメージの多い機体が無いか調べたたり、法人へのコンタクトなど一般的なやり方で見つけているとも話してくれました。個人や愛好家クラブではなく、法人からの売上がメインだが、ビジネスとしては不十分だとも言っていました。
私には、売上げ不振の理由がつかめなかったので、試しに会社の中を観察したり、営業マンと会ってみたいと、彼に申し出ました。何か問題が見つかれば、と思ったのです。
会社の中を見回しても、何の問題もありませんでした。魅力的な建物と十分な設備がある整備工場があり、整然としていました。点検修理するための駐機場の広さも十分でした。受付嬢は魅力的で人当たりが良く、営業マンはハンサムで熱意と知性が感じられる人でした。
その彼が、自分の売上アップの方策が、コストが高すぎるという理由でディノに却下されたと言った時に、手がかりをつかみました。
ディノが昼食からもどるまで、彼の席のところに行ってコーヒーを飲みながら彼のプランの説明を聞きました。私は、彼の計画の方向性は間違っていないと思いました。ディノにいくつかの数字を聞き、自分の概算と合致していることも確認しました。
私たちは、彼のデモ機を見るために駐機場まで出向きました。それは重役用の6人乗りで最新の通信機器やナビゲーションシステムが完備されていました。タイプライターや計算機、コピー機やいろいろな事務用品が供えられ、それは文字通り空飛ぶオフィスでした。
彼のアイデアのキーポイントは、このデモ機を最大限に生かすということでした。
ディノが戻って来て冗談を言いました。「飛行機はもう買ってくれたのかい。」
「買ってないよ、ディノ。でも、この若者は解決策を持っているよ。少なくとも部分的に売上げに貢献できる策だよ。僕は飛行機のバイヤーじゃないが、ちょっと話を聞いてくれたら、君とボブの役に立てるかもしれないよ。」
「どういうふうに。」彼の表情は、あっという間に懐疑的になり、守りに入った感じでした。お金のかかる提案をしてくるだろうと思っていたのです。
「ちょっと部屋に入ろう。君のファイルの中にある、情報や数字を少し教えてもらう必要がある。」私は彼の肘をつかまえて、部屋まで引っ張って行きました。
私は前年の広告費の予算と売上の総トータルがわかる業績表を見せるように言いました。
「さて、ボブのプランに金がかかり過ぎるという前に、6人乗り機の請求伝票のうちの一つを見せてくれるか。エクストラが付いていないベーシックモデルのだ。君が捻出する300ドルを取り返すために、最初の30日間に何機売らなければならないのかを計算したいんだよ。」
そのプランは、エリアの主要な工場や大企業4社のバイヤーにコンタクトし、ディノの経費で週末にナッソーまで飛行する、試乗のツアーに無条件で招待するというものでした。
求めに応じてディノから出た数字から、2万ドルのエグセクティブ仕様が1機売れれば、そのツアーに対して十分にもとが取れると、私には判断できました。
彼は疑いながらも賛同し、もし1機売れたら我々に500ドルのボーナスを出すことを約束しました。
私はボブに、次のようにバイヤーに電話で伝えるように指示しました。
「いつものような出張」だが、これといったプランなしに、会社からふらっと出かけても、大丈夫であると。
工場見学の後、飛行機に乗り込み、フロリダとバハマ方面に飛び立ちました。
離陸して数分後、化学品メーカーの営業部長が、我々の「はったり」(少なくとも彼はそう思っていたようです)に対して、次のようなことを言い出しました。「本社へレターを出すのを忘れてしまったよ。どうしようもないよね。大事な用件だったから、後からこっぴどく叱られそうだ。」
「どうしようもないこともありませんし、叱られる必要もありません。ウェイリー、お客様のレターのこと頼んだよ。」アトランタが下に見えるころには、その女性がなぜ乗っていたのか、彼には分かってきたようでした。
招待客が乗機する前に、私たちはすべてのオフィス機器を覆い隠しておきました。機内にそんなものが有るとは絶対に気づかれないように、です。
レターのタイプが終わり、ウェイリー嬢は、ディノの事務所へ無線連絡し、オペレータに内容を読み上げ、タイプさせ、署名されたレターは後日送付すると明記させた上で、それをすぐに郵送するように言いました。
「ニールソン様、直接オペレータに読み上げていただいても良かったのですが、そのコピーをファイルしていただくだけのほうが良いかと思いました。」
ウェイリー嬢がそう言ってレターのコピーを渡すのを、彼は信じられないといった様子で受け取りました。
他のレターの送付、ゲストから妻への銀行預金についての電話、ゲストと彼の弁護士と彼の支店の三者間での会話など、すべて5000フィートの上空で実演されました。
株価をチェックしたり、天気予報や野球の試合結果を見るなど、一般のフライト中には不可能な様々のことを航行中デモし続けました。
バミューダでの週末はビジネスと楽しみを兼ねたものとなりました。本土への帰途に就くころには、二人の重役が注文を出すことを真剣に考え始め、化学会社の営業部長は、帰社したらできるだけ早く飛行機の購買の申請を社内で上げると話してくれました。
帰りのフライト中、私はもう一つ良いアイデアを思いつきました。近代的な飛行機の操縦が如何に容易かを体験してもらうためにゲストに操縦管を握ってもらうことを提案しました。数分間説明を受けた後、彼らはまるでプロのパイロットにように飛行機を操縦したのです。
数か月後、ディノからの電話で、「エグゼクティブ・ゲスト・フライト」と銘打って、月に1回、重役のプロスペクトにナッソーまでのフライトと体験してもらうという販売促進キャンペーンを始めたことを知りました。
「見せる」ことが「話す」ことと同じくらい重要なことがよくあります。特にそうなのが、高額商品の営業の分野です。土地、工業製品、軍用品、その他一回の取引で大きなお金が動くような営業の分野です。
この分野にいる営業マンは、プロのバイヤーと対峙しなければなりません。彼らは専門分野において、営業マン以上の製品知識を持っているかもしれません。彼らは、何が必要なのかを熟知しており、セールストークを割り引いて聞きます。一方彼らは自分が買うものを実際に見ようとします。それが機能している様子を実際に見たり触ったりすることを欲するのです。
<マイクの一言>
ここでは、いくつか重要なことが教えられています。一つは「見せる」ことの効果ですが、これは人間が何かを理解するときに、文や話だけでなく、何か質量のあるもので実感したほうが、はるかに理解度が良くなるということです。たとえば、ブルドーザーを見たことが無い人にブルドーザーのことを完璧に説明している文章を読ませたとします。彼はその文章の中にあるすべての言葉の意味を理解しています。彼はそれを10回読み返しました。それでも、それでもブルドーザーがどんなものか、理解した気になりません。見たり触ったりできる質量が欠けているからです。ブルドーザーというものに対するリアリティー(1-6参照のこと)が欠如しているため、ブルドーザーを手に入れるとこんなに役に立つという実感が弱くなってしまうのです。何かを売るとき、出来る限りプロスペクトに実物やそれがどう働くかを見せて、物体として実感させることは非常に重要です。営業のどの段階でも、チャンスがあれば、プロスペクトにデモを見てもらうことを提案してください。
しかし、デモンストレーション用の機械、試乗車、不動産を見せるために連れていける場所などが、常にあなたに与えられているわけではありません。そんな時に物体の代わりになるのは、絵、写真、動画、グラフなどです。これらは物体の代わりになります。セールスプレゼンテーションの中に、物体の代わりになるものを出来るだけ多く盛り込んでください。
もう一つ、非常に重要な記述がありました。レスは本文の中で、「招待客が乗機する前に、私たちはすべてのオフィス器具を覆い隠しておきました。機内にそんなものが有るとは絶対に気づかれないほどに」と書いています。これは体験前の期待と体験後の実感のギャップの効果を狙っているのです。人は何かを体験するとき、それまで期待していたことと同等の体験ができるのと、期待を超えた体験、あるいは期待していなかった体験ができるのとでは、そのインパクトがぜんぜん違ってくるのです。すごく良い体験でも、事前に予測がついているとその感激はうすれます。一番感激するのは、そこまで期待していなかった時です。期待以上の体験をさせることのメリットは計り知れません。人は物やサービスを買ったときに、それが自分の期待をはるかに超えていると、売ってくれた相手を信用するだけでなく、また、同じ人から買いたい、消費材ならば同じものを買い続けたいと思うのです。それだけでなく、他に人にも自分の体験を伝えたいと考えるようになります。昔から、人に軽い驚きを与える商品はあっという間に世の中に認知され、みんなが欲しがる商品になりました。例えばソニーのウォークマンが発売された時、それを買った人たちは、当時の常識では考えられない小さなサイズから、期待をはるかに超えた音質を持ち歩きながら楽しめることに、人々は熱狂しました。それを買った人たちは、「凄い音質の超小型で持ち歩けるテープレコーダーがある」ことを友人に伝えました。その口コミ効果はたいへんなものだったと思います。口コミと言えば、人は「普通においしいラーメン」のことを人に話そうとはしませんが、「ちょっとびっくりするほど旨いラーメン」を食べると人に話したくなります。「期待以上」と「口コミ効果」には相関があります。
これを読んだ営業マンは期待以上の感激をデモンストレーションができないかを考えるだけでなく、見込み客に軽い驚きを与えるような(期待を上回る)何らかの気遣いや営業マンとしてのサービスを無いかを常に考えてください。営業マンとしては、有り得ないくらいの製品やサービスに関する専門知識でも、もちろん結構です。プロスペクトが期待する以上の何かを与えてください。きっと、クロージングの助けになります。何かを体験させる前に、期待度を高め過ぎないように気を付けてください。ギャップ効果が薄れてしまいます。すごくおいしいラーメンを友人に食べてもらいたくなったら、「死ぬほどうまいラーメンがあるよ。」などとは言わないでください。「まあまあ美味しい」で良いのです。製品のデモンストレーションや日頃の営業マンとしてのサービスやフォローアップの中に、軽い驚きを与える何かをちりばめてください。その客は、あなたのことを他の人に紹介したくなります。
<まとめ>
「ショック療法」、「冷水作戦」、そして「デモンストレーション」には多くのバリエーションがあります。二人の営業マンが、全く同じ使い方をすることはありません。
自分自身のオリジナルを考えてください。「買う前にもう少し考える」タイプを簡単なトークだけで落とすために、前もってネタを準備することを好む営業のプロもいれば、何も前もってプランせず、クロージング直前に思いついたことを、ぶっつけ本番でやることを好む人たちもいます。彼らもプロです。
あなたが行動し、あなた自身のスタイルで語り、プロスペクトがニーズや問題がはっきりしてきたときに、それにピッタリくる話しやデモができれば、これらのテクニックをどう使うかは重要ではありません。
ただ、忘れないでください。見せながら話しなさい。見せながらストーリーを語るのです。


